はっきり言って、4月までは宿の客入りには期待していない。船は1日1便。しかも悪天候で欠航しがち。島内の観光スポットは雪で埋まり、シンボルの綿羊たちも羊舎にこもっているような時期だ。僕自身も、宿の収入より海岸で採取する海藻を当てにしている。 しかしこの3月、数人ではあるが客に恵まれた。オフシーズンに観光目的で、しかも高校生や大学生だったので驚いた。彼女たちに共通していたのは、地域や自然に対する好奇心だ。 物は試しと、ノリ採りの現場に連れて行った。案の定、寒さに負けて1時間も持たなかったが、感想を聞いたら「知らないことばかりですごく勉強になりました!」と声を弾ませる。スノーシューで原生林や海岸沿いを案内すれば、この時期特有の曇った空や海を見て「すごくきれいですね!」なんてはしゃぐ。僕としては焼尻島を観光するなら暖かい時期に…なんて思うのだが、お構いなしだ。 思えば僕も学生の時は好奇心の赴くままに旅していた。有名とは言えない島にもたくさん訪れた。特に何をするわけでもない。でも楽しく、満足だった。そうだ、学生の時期のこの感覚って絶妙なんだ。僕だって、あの頃があったから今、焼尻にいる。もしかすると彼女たちの人生に影響を与える瞬間に立ち会ったのかもしれない。
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