小学校の冬休み。1年生の娘がのろのろと朝食をとっていた。 「いま、そこのバラの木に鳥が来た!」 「早く食べてほしいんだけど」と言いかけ、まんまるな真剣そのものの目を見た瞬間、言えなくなった。私は茶碗(ちゃわん)を洗っていた手を止め、食卓の方へ行き、同じ窓から外を見た。 バラの枝に鳥はもういなかった。ちょっと止まるだけしか用の無いような寒々しい枝に、野鳥がじっとしているわけもない。 食後、娘はどんな鳥だったか説明を繰り返した。さほど鳥に興味はなかったはずだが、こだわっていた。 「頭の毛が立って見えてピーピーと鳴き声が聞こえた。大きさはこれくらい」 「庭にきて騒がしく鳴くならたぶんヒヨドリじゃないかな」。私は図鑑を見せた。 娘はもっとカラフルで格好良い鳥だったと言い張り、鳥の絵を色鉛筆で30枚も描いた。 青、赤、黄、緑の鮮やかな羽根。でもくちばしはどれも黄色。カケスか、キレンジャクか、ツグミの可能性もあった。絵を見るほど余計に分からなくなったが、至近で野鳥を見た興奮がどの絵にも宿っていた。 しだいに私は種名を言い当てなくてもよい気がしてきた。カラフルな鳥たちは、一緒にいる時間をキープするための娘の使いなのかもしれなかったから。
|