北海道新聞旭川支社
Hokkaido shimbun press Asahikawa branch

北極星

 稲荷桂司(旭川・公務員)*さらばカナちゃん 2017/12/12

 10月の初旬、春に娘が捕まえてペットにしていた2匹のカナヘビを裏山へ放した。もともと素人が冬を越させるのは難しいので秋に放すのがおすすめ、とネットで読み、娘たちにもそう伝えておいたのだ。

 夏の間じゅう、かわいいかわいいとしぐさをながめて楽しんでいた娘たちは、ずっと手元に置きたがっていた。私も「カナちゃん」と名前をつけて楽しんでいたが、下手なことをして死なせてしまうより放してしまおうと説得した。

 草むらに1匹ずつ手で取って放してやると、2匹はそれぞれしばらくあたりをうかがった後、草むらの中にもぐって見えなくなってしまった。娘たちはちょっと気落ちした様子で、「来年の春また捕まえる」「また同じカナヘビが捕まるといい」とつぶやいていた。

 これまで楽しませてくれてありがとう、今のうちにおなかいっぱい虫を食べてしっかり冬眠し、来年また姿を見せてほしい。そう思って足もとを見ると、放したものの半分くらいの小さなカナヘビがそそくさと走り去るのが見えた。

 ああ、大丈夫。この豊かな自然の中でなら、ちゃあんと来年まで生きのびて、また顔を見せてくれるだろう。今では雪におおわれている裏山だが、そのどこかの土の中で、カナちゃんたちはぐっすり眠っていると信じている。


戻る