北海道新聞旭川支社
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北極星

 有村幸盛(旭川・文化団体事務局長)*記憶に残る授業 2017/08/17

 還暦を過ぎたあたりから、昔のことを懐かしく思い出すことが多くなったような気がします。高校3年生の時の夏休み、校長先生の特別授業がありました。

 初めに、ご自分の名前を松浦三州(みくに)と自己紹介し、「今日は、君たちに本の読み方を教えます」と話して、生徒全員に幸田文の随筆集「父・こんなこと」という文庫本を配りました。その中の「あとみよそわか」という文章を題材に授業が始まりました。

 私自身、割と本が好きで、当時は乱読に近い形で和洋の小説を気楽に読んでいましたが、この本は、読み始めてすぐ、居住まいを正しました。著者の父・幸田露伴が、掃除の仕方など家事のことや人生の身の処し方などを娘に真剣に教えている様子が、簡略で隙のない文体で書かれていることに驚きに近い感動を覚えたからです。最近、茶色く変色した文庫本を読み返してみると、ところどころ線が引かれ、また欄外に「格物致知(かくぶつちち)」など難しい漢字の意味が書かれてあります。

 普段、近寄りがたい古武士的な雰囲気を醸し出している校長先生の授業、しかも2時限ということで、最初はとても気が重かったのですが、冒頭のわずか3ページを約2時間にわたって丁寧に解説していただいた授業にとても感銘を受けました。

 今から、50年前の夏の思い出です。


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