北海道新聞旭川支社
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北極星

 森川理加子(士別・演劇集団主宰)*メロンの苗 2017/08/01

 「メロン枯れちゃった!」。会った途端そう言った友人に「だから言ったのに。食べ物と違うって」。思わずそう返した私に友人は嘆いた。「メロン、食べ物じゃん」。違うのだ、友人が枯れたと嘆いているのはメロンの苗だ。

 6月末、家庭菜園用の苗を買うには遅すぎる頃だが、私と友人は遠出した際に立ち寄った店で、破格の値段がついた野菜の苗を見つけた。

 「この苗、安くない? あ、メロン! これ買おう」

 「え、やめなよ。こんなの安くないよ」

 「安いよ! 仕入れ値はもっと高いんだ。売れ残るよりいいと思って投げ売りしてんだから、こっちは大赤字だ」

 はしゃぐ友人を止めようとしたら、そばに店長がいたらしい。焦る私をよそに友人は喜んでメロンの苗を買った。私は言ったのだ。食べ物と違うんだからやめなよ、と。

 食料品の見切り品が安いのはいい。買ってすぐ食べれば終わりだから。苗は違う。畑に植え替えて育てなければならないのだ。そのメロンの苗は日陰に置かれて、カラカラに根元が乾いて、葉の色も悪い。どう見ても枯れそう…。だが、それは言えなかった。店長は怖い顔で見ているし、家庭菜園初心者の友人は浮かれて聞く耳を持たない。

 結果は案の定…。まぁ勉強代としては安かったよね、と慰めた私である。


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