北海道新聞旭川支社
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北極星

 谷紀美子(名寄・非常勤図書館員)*大内宿の紆余曲折  2017/06/01

 大内宿(じゅく)(福島県下郷町)をご存じだろうか。江戸時代の宿場町がそのまま残っている会津の集落だ。

 5月の連休に出かけたのだけれど、日中の渋滞がハンパないと聞き、朝早いうちに出発した。宿泊していた会津若松市内からは、小一時間でたどり着く。人影もまばらな中、店を開け、「お茶っこ飲んでってくなんしょ」と声をかける青年がいた。試食品の漬物や菓子をせっせと切り、お茶をふるまい、大内宿のこれまでを語ってくれた。

 いわく、江戸時代には参勤交代の街道の宿場としてにぎわう。明治になって別ルートの国道が開通し、大内宿はさびれる。生活が困窮し建て替えもままならず。1967年、茅(かや)職人調査の学生が訪れ、大内宿の存在が脚光を浴びる。81年重要伝統的建造物群の指定を受ける…。ざっとこういう流れだそうだが、指定を受けるかどうかで村人は葛藤し、困難もあったという。

 だが、「忘れられた集落」が今や人気の観光地となって、生活も安定し、ここで子育てができるのが何よりと、人懐っこい笑顔で青年は語る。祖父母世代・親世代の決断と努力に対する敬意と、ここを訪れる人々への感謝が伝わり、ごちそうになったほうじ茶と漬物もしみじみ美味(おい)しかった。どうぞ福島県の大内宿を訪ねてください。高台から俯瞰(ふかん)する風景は見事です。


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