思い出深い宿がある。小笠原諸島(東京)の父島にある小笠原ユースホステルだ。学生時代、スタッフとして半年ほど住み込みで働いた。 特筆すべきは小笠原の観光スタイル。なにしろ片道25時間半もかかるフェリーに乗るしか訪れるすべはなく、さらには3日間の停泊があり、その後ようやく復路のフェリーが出る。つまり、少なくとも3日間は島に滞在するため、多くのお客さんが3連泊以上で泊まっていく。 世界自然遺産に選ばれる要因となった固有の動植物、イルカやクジラが間近に見える海、筆舌に尽くしがたい南国風情…。しかし、一番好きだったのは、動植物でも海でもなく宿の雰囲気だった。老若男女の隔てなく、その日の楽しみを共有し、語らい、時に夜を明かす。時間がたつことをあれほど惜しく思えたことはない。小笠原という非日常空間もそうだが、連泊を要する環境、小笠原ユースホステルそのものの雰囲気も相まっての良さなのだろう。当時20歳だった僕は「将来こんな仕事をしてみたい」と思った。 約10年後の今年4月29日、縁あって移住した焼尻島でゲストハウスを開業した。小笠原とは環境も条件も異なる焼尻だが、何か面白くなりそうな期待を抱いている。いろいろと試行錯誤してみたい。 |