個人の事績を書きつづる自分史や家族史が広まったのは1980年代以降のことらしい。先祖の足跡を調べて記録するため博物館へ問い合わせに来る人がよくいる。富良野市は各地域で郷土誌が刊行され地域史がよくまとめられているが、文献を調べても分からずじまいのことが多い。 先日、祖父について調べたいと横浜からわざわざ博物館を訪ねられた方がいた。何度も「空振る」と端から諦めの気持ちが先行してしまう。ところが今回はまれなケースで、札幌農学校第八農場看守所の主任を務め、ある時期には個人農場も経営された方だったので、いくつかの文献と地図にお名前や事績を見つけ、喜んでお帰りいただけた。 こうしたレファレンスサービスに応えられるか否かは、経験値だけではなく積み重ねられた情報蓄積量がものをいう。何を調べればどんな手掛かりが得られそうか。博物館学芸員の腕の見せ所である。いかに幅広く、地域を掘り下げて探究しているか否か。博物館の根っこは調査研究による有形無形の多様な情報収集活動にある。 たった一人のお客さまかもしれないが、喜びや幸せを感じてお帰りいただけるかどうか。それは日頃からの博物館活動のあり方にかかっている。大げさかもしれないが、改めて肝に銘じた出来事だった。 |