北海道新聞旭川支社
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北極星

奥野真人(焼尻・元地域おこし協力隊員)*ある冬の夜の洗礼 2017/01/07

 「今しかできない経験を」と思い、たまたま募集のあった地域おこし協力隊という職務に就いた。焼尻島に住んで3年。いまだに圧倒されるのが、暴風雪警報が出るような日の天気だ。

 学生時分からの念願がかない島暮らしを始めた僕だったが、移住して3日目の夜、最初の洗礼を受けた。その日、食事に誘ってくれた島民の家にお邪魔して話し込み、気づけば夜の2時。外は音を立てて風が吹き、雪が真横に舞っている。そんな状況下で案の定やってしまった。ある場所の吹きだまりで車が進まなくなったのだ。

 この時間はほかに誰も通らず、電話をかけようにも深夜帯。そもそもまだ誰の連絡先も知らない。揚げ句、その寒さで携帯の電源は落ちてしまった。明け方5時になり、通りがかった漁師さんに手際よく助けられ、僕は事なきを得た。

 僕は兵庫県で育った。日々の移動は電車で事足り、車など年に数回運転すれば良かった。一方、ここは車が必須で雪も降る。島暮らしに憧れ、島に協力するという職務に就いた僕が、このありさまである。早々にくじかれた夜だった。

 このエピソードは僕の島暮らしの序章だ。3年たち、協力隊の任期が満了した今も、あの日のような天気になるといろいろと思い出してしまう。僕自身、まだまだ未熟なことは百も承知だが、今のところどうにかなっている。僕は引き続き島暮らしに挑む。

 おくの・まさと 大阪府河内長野市で生まれ、兵庫県尼崎市で育つ。関西学院大を卒業後、食品メーカーに就職。その後、IT企業でウェブライターを務め、2014年1月から羽幌町地域おこし協力隊員(焼尻地区担当)。昨年12月に任期満了で退任。今春、島内でゲストハウス開業を目指している。30歳。


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