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北極星

森川理加子(士別・演劇集団主宰)*耳の“日曜日” 2016/12/23

 「今日の耳は日曜日~」。つまり、何を言っても聞こえませ~ん! という意味だ。昔はよく、こう言って母の小言を聞き流したものだ。しかし、ここ数年は完全に立場が入れ替わった。

 年を取って何事も面倒くさくなった母は、どこもかしこも電気をつけっ放し、水道の水も出しっ放し…と、何でもやりっ放し状態。私は「電気はこまめに消して! 使い終わったら蛇口は閉めて!」と、母の後始末に走り回る日々。困ったことに、耳も遠くなり何を言っても聞こえていないから、本人は涼しい顔でお茶を飲んでいる。

 せっかく高い金を出して補聴器を買っても、面倒だからとまったく使わない。本人は「小さいものだから、もし落としたらもったいない!」と言うが、使わないほうがよっぽどもったいない。

 ふと、補聴器を購入する際に相談した医者の言葉が脳裏をよぎる。「補聴器もねぇ、耳が遠い本人は不便に思ってないことが多いので、買っても使わなかったりしますよ」

 今更ながら、そのセリフに納得する。本人は耳が遠くても周りは聞こえるので、話す言葉は一度で相手に通じる。相手の言葉が聞こえなくても「はぁ?」の一言で相手は何度でも言い直してくれる。興味がなければフンフンと適当にうなずいておけばいいのだ。確かに本人は不便を感じないだろう。大変なのは何度も同じことを言わせられる周りだけなのだ。

 母の耳は毎日が日曜日。今日もニコニコと私の小言を聞き流している。


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