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北極星

國枝保幸(市立稚内病院長)*祖父の思い出話  2016/09/16

 私の本籍は「岩手県陸前高田市広田町字泊」、とても小さな漁村です。私の曽祖父は寺の住職として愛知県からこの地に赴任したそうで、その息子として生まれた祖父は後を継ぐため一度は僧侶の学校を出ます。しかしどうしても僧侶になるのが嫌で、地元の名士に学費を出してもらい医学専門学校を卒業します。

 そして、その恩に報いるため、この村で産婦人科医院を開きます。田舎の病院ですから産婦人科医といってもあらゆる病気を診ていたのだと思います。病院の評判はとても良く、患者さんは周辺地域からも集まり繁盛したそうで、当時はまだ珍しい自動車「シボレー」を所有、専用の運転手も雇い、村長を務めたこともあったそうです。この村に尽くし、この村で生涯を終えた人でした。

 幼少のころ、やはり医者となった父親からよく聞かされた祖父の思い出話は、「大みそかの夜に除夜の鐘を聞きながら馬の背に揺られお前(まえ)の爺(じい)さんと一緒に往診に行った」というものです。

 この話は、私が医者という職業を選択する一つのきっかけになっています。全く縁のない稚内という街に短期の出張医師として初めて赴任、その後縁があって1997年9月に内科医師として勤務を始め、今年で20年目、現在院長を務めています。この祖父の思い出話を思い出すたびに、この稚内で働くことは決して偶然ではなく、今では「必然だったのだ!」と感じるようになっています。

くにえだ・やすゆき
岩手生まれ埼玉育ち。北大医学部卒業後、北大病院などで勤務。2年間の米国留学を経て、1997年から内科医として市立稚内病院で勤務。2013年から院長。


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