北海道新聞旭川支社
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北極星

高木知敬(市立稚内こまどり病院長)*メーターイトウ  2016/07/13

 毎朝ホームリバーの釣り座に立ち、1時間ほどイトウ釣りをするのが春の日課だ。シラウオやイトヨの群れを追って回遊してくるイトウをひたすら待ち続ける。ヒットするのは4、5日に1度だが、食いついた時の衝撃と興奮は忘れ難い。

 6月中旬の土曜日、突然そいつが来た。20メートルほど投げて引いてきたルアーを追ってきたイトウが、目の前で猛然と襲いかかった。ドシンという衝撃と同時にザバッと水柱が立ち、ゴンゴンとイトウが頭を振る振動が竿(さお)に伝わる。闘いは約3分間と短いが、魚も釣り師も死力を尽くした。

 やがて疲れたイトウが水面に浮上し、岸辺へと寄せられ、直径80センチのタモ網に収まった。体長105センチ、体重11キロの堂々たる魚体の「メーターイトウ」であった。私にとっては、1994年から2016年までの23年間の集計で1954匹目のイトウで、自己記録を更新するモンスターだ。

 日本の淡水魚で竿とリールを使って独りで釣りあげることのできるメーター級の巨大魚は数少ない。イトウはその代表格で、川釣りを愛する人びとの究極の憧れでもある。これを釣りたくて本州から時間もお金も労力も目いっぱい費やして遠征してくる人々を幾人も知っているが、望みがかなうとしても少なくとも10年はかかる。

 イトウは絶滅危惧種の貴重な魚だが、メーターに育つまでに一度も釣られたことのない魚はめったにいない。口の古傷でそれが分かる。それだけに元気で放すことが資源保護に必須となる。


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