北海道新聞旭川支社
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北極星

嶋崎暁啓(豊富・NPO事務局長)*湿原の彩り  2016/07/02

 初夏を迎え、サロベツ湿原では花も鳥もにぎやかだ。それにひかれて人々も集い始める。日々の様子を眺め、湿原はとてもおしゃれだと感じる。季節に合わせて次々と装いを変えていく姿には驚くばかりだ。

 今の時季、ヤマドリゼンマイがみずみずしい若草色の葉を広げ、炎のような形の葉には湧き上がる生命力がみなぎっている。コバイケイソウの花のクリーム色、カキツバタの紫色、エゾカンゾウの黄色が湿原の中で交ざり合って、目にも鮮やかだ。

 ただ、少し残念なこともある。今年はエゾカンゾウの咲き具合があまり良くないのだ。6月上旬に霜が降り、多くが花を咲かせずしおれてしまった。これに追い打ちをかけるようにエゾシカの食害が発生した。

 ところが不思議なもので、何か一つの花が悪い年も、他の花は良かったりする。今年は春先からミツバオウレン、ヒメシャクナゲ、ホロムイイチゴがとても素晴らしかった。そして、コバイケイソウは数年に一度の一斉開花となった。

 湿原一面に咲くエゾカンゾウ群落を期待した方には申し訳ないが、自然の摂理にはかなわない。それに湿原だっていつも同じ黄色い服よりも、たまには違う色の服も着たいだろう。雪解けの季節に始まる湿原のファッションショーは、夏の終わりまで開催され、秋のシックな草紅葉、真冬の純白のドレスまで続く。

 今は今だけしか出合えないものが必ずある。雄大な景色、青空に浮かぶ雲、流れる風に揺れるワタスゲの穂。足元のかれんな花に目をやり、ベンチに腰かけ、ゆったりと湿原そのものを感じてほしい。エゾカンゾウが少なくても、きっとこの場所の新たな魅力を見つけることができるだろう。


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