北海道新聞旭川支社
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北極星

伊藤由紀子(留萌・主婦)*いちめんの菜の花  2016/06/25

 5月中旬、滝川市江部乙の菜の花の丘へ行くことができた。黄色一色の香り高い菜の花の丘を生で見たのは初めてだった。久しぶりに近隣の治療院へ行き、治療が終わった後に院長先生と奥さんが忙しい時間を割いて車で案内してくださった。

 黄色い花に近づいて香りを身体中に取り込んだ。

 地域の人々の智恵と惜しまない努力を長年積みあげての「いちめんの菜の花」は大勢の見物客を集めていた。

 花の丘を一つ通り過ぎると次の花の丘が見えてくる。背景のように立っている大木の幹と緑の葉がアクセントになり、心憎い演出だ。

 留萌の街外れの牧場も近年、菜の花畑を大掛かりに作っている。穏やかな日本海を望むことができる高台も菜の花が咲きそろっていた。

 71年前、戦火に追われて引き揚げ船で郷里の目の前まで来て大勢の女性や子どもが犠牲になった「三船遭難」の場所に近く、菜の花の時期が過ぎても悲しい思いで海を見つめている。

 今は何事もなかったように静かな海にも、香り高い菜の花畑にも、戦火はいらない。美しく飾りたてた薄っぺらな言葉で言論の自由や信条の自由をも奪い取ろうとする権力者はいらない。紙芝居を描きながら、「中国製の高級なシルクの服があれば筆がスムーズに進むのかもしれない」と、お金も権力もない身をぼやいている。


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