北海道新聞旭川支社
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北極星

谷紀美子(名寄・非常勤図書館員)*アスパラの季節に  2016/06/11

 ついこのあいだようやく春になったと思ったら、緑もえ、ライラックが咲く、急展開で季節が進むことにいつも驚いてしまう。急に寒くなる日もあるが、露地物のアスパラが出回るようになると、すっかり初夏の気分だ。名寄のアスパラは本当においしいのでこの時期はほぼ毎日食べている。

 5年前の東日本大震災。私は短大時代に寮生活を共にした友人たちの安否が気にかかり、グーグルの「パーソンファインダー」で日々、かすかな手がかりを探した。震災から10日ほどたってようやく連絡が取れた。被害の程度はさまざまだったが、幸い、みな無事だった。

 無事を喜んだものの、現地に行って直接、手伝えるわけでもなく、結局、自分にはわずかな募金以外のことはできなかった。それで、せめて新鮮な名寄のアスパラを味わってもらおうと東北の友人たちに送った。

 「こんな立派でおいしいアスパラは初めて」「職場でゆでてみんなで食べた」などと喜んでくれた。自分が生産者でもないのに名寄産が自慢だった。少しだけ気が晴れた。

 5年たった今も送り続けている。ずっと前から送っている親類の分も合わせると送り先が倍増した。なんだか大変だけど、どうやら毎年楽しみにしているようで引っ込みがつかない。また、義理堅くお返しで届く気仙沼の海産物セットや仙台の笹(ささ)かまぼこ、山形のサクランボなどをひそかに期待する気持ちが無いとは言えない。もはや動機も不純です。


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