北海道新聞旭川支社
Hokkaido shimbun press Asahikawa branch

北極星

嶋崎暁啓(豊富・NPO事務局長)*川面に映る季節  2016/04/16

 サロベツ川にかかる橋から、水面を眺めるのが日課だ。とは言っても、早朝ウオーキングではなく、毎朝の通勤途中に車中から横目でチラリと眺めている。湿原を取り巻くように流れる川は、泥炭地特有の茶褐色の流れとなってゆっくり進む。平たんな湿原では、川は低い場所を探して右へ左へ蛇行を繰り返す。もしヘリコプターに乗って上空から見ることができたなら、緑色の大湿原に横たわる大蛇に見えるだろう。

 しかし、残念なことに湿原の木道をいくら歩いても、低い場所を流れる川を見ることはできない。唯一、橋の上からは蛇行している川を眺めることができる。自然のままの川が湿原から現れ、橋の下をくぐり、そしてまた湿原へと消えていく…。悠久の時を感じる美しさだ。

 季節は春、真っ白な氷で覆われていた川の中央から氷がとけ始める。止まっていた時間が、ゆっくりと動きだす瞬間だ。水量が増え、やがて川岸に氷が残るのみとなり、あくまで穏やかに流れる。この時季、川では多くのカモたちが羽を休めている。本州の越冬地から渡ってきて、これから北の繁殖地へ向かう前のひと休みだ。やがて川岸のヤナギが芽吹くと川は新緑に包まれる。

 川の水面は深みのある色のおかげで、鏡のように空を映し出す。季節が進んだ夏、抜けるような青空に次々と浮かぶ雲を映し、まるで絵画のようだ。秋は夕暮れが素晴らしい。水面はあかね色に染まり、夜になると月や星を映す。

 湿原の中を蛇行するサロベツ川。もし原野の小さな橋を渡る時があれば、車のスピードを緩めて下を眺めてほしい。今日の大蛇の模様は何だろうかと。


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