北海道新聞旭川支社
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北極星

安川としお(士別・朗読パフォーマー)*立ち食いうどん  2016/03/08

 讃岐うどんはコシがあって本当にうまいと、好んで食していたが、手術で胃袋を取ってからは、どうもやっかいなものになった。

 確かにうまいのだが、胃がないため、しっかり噛(か)まなければならず、口の中で何十回もモグモグとやっていると、味が変わってしまうし、アゴがだるくなってしまう。

 冷たいザルうどんなんかは特にそうで、もともとろくに噛みもせず、いわゆる喉ごしを楽しんでいたのに、噛むことでうまさがどこかに消し飛んでしまった。

 胃がなくなってから、急にランクが上がったのは、駅の立ち食いうどんである。カウンターの前に立って短時間で、という訳にはいかないが、車内持ち込み用の発泡スチロール容器に入れてもらった天ぷら玉子うどんは、少し置くと、かき揚げもめんも程よくツユを吸って絶好の柔らかさになり、口に入れると程よく溶けていく。しかも、最近のうどんは、モサモサと粉っぽくならず、実にうまいのだ。

 そのことを家内に話したら「ツユを吸ったうどんは塩分のとり過ぎになる」とバッサリ。

 この一、二年は、雪のちらつくホームで、「立ち食い」のコーナーから聞こえてくる、めんの湯切りの「ザッザッ」という小気味よい音を聞きつつ、手にぶら下げた駅弁とペットボトル入りのお茶の入った袋の存在を、うらめしく再確認しながら、列車の到着を待っている。


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