嘘(うそ)もつき通せば真になる―というが、現実はなかなか難しい。 私の友人は、20年以上も前に夫についた嘘を今もつき続け、大変後悔している。そして、いずれその嘘が原因のストレスで離婚を切り出してしまうかも、というのだから穏やかではない。 いったいどんな嘘かと問えば、それはなんとプリン。世間一般の夫婦の離婚原因である不倫ではない、甘いお菓子のプリンである。 実は彼女、プリンが大嫌いなのに、夫と付き合い始めた当初、お土産のプリンを嫌いとは言い出せず「私、プリン大好きなの!」と、今では信じられないほどの甘ったるい声で喜んで見せたのだという。 以来、けんかするたびに彼女の夫はプリンを買って来る。それは口下手な彼なりの謝罪らしい。だからこそ、彼女も夫の気持ちを無にしないため、喜んで食べてみせるのだ。なんという大人の対応! 夫婦円満の秘訣(ひけつ)ここにあり! しかしけんかの後で、彼女はまだまだ怒りが心の中にくすぶっているだろうに、仲直りのために嫌いな食べ物をさもおいしそうに食べなければならないとは、なんという苦行だろう。 しかも彼女の夫は、けんかの後にしかプリンを買ってこない。普段から買ってきてくれれば実は嫌いと言えるのに、けんかの後ではまだ怒ってると思われそうで言い出せないそうだ。 なるほど、これは悩ましい。なんとかプリンを好きになれればいいのだが、それができれば苦労しない。 嘘はどこまでいっても嘘でしかないらしい。
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