昨年の「今年の漢字」は「安」だった。安全保障関連法の成立やテロ事件の多発、環太平洋連携協定（ＴＰＰ）に伴う食の安全への不安などが「安」に集約されたのだと思う。

 １５年ほど前に、帰省していた書家の友達が、彼の父が開設していた書道教室で、半紙にさらさらと書いた何枚かのうちから「安心」と書かれた１枚を取り上げて、「安川」の「安」の字が入っているから、よかったら持って行けと言うので、帰りにもらって来た。

 彼とは中学からの長い付き合いだが、学生時代、私のアパートに居候している時、飯のおかず代にも困っていたが、パチンコで稼いでくると彼が言うので、なけなしの１００円玉を何個か渡した。数時間して彼が紙袋を抱えて帰ってきたので喜んだが、袋から出てきたのは、コーヒードリッパーとレギュラーコーヒーだった。何を考えてるんだと詰め寄ると、コーヒーでも飲んで心にゆとりを持つことが大切なんだと、平然として言うような不思議な男だった。

 酒浸りの生活がたたって、彼は１２年前に亡くなった。故郷士別での遺墨展の際、私は彼からもらった「安心」を簡単な額に入れて展示してもらった。「力の抜けたいい字だ」と評価してくれた書道関係者もいた。

 「安心」の額は今も私の家に飾ってある。数年前からは「安心」の傍らに「私の安心はいつもひと安心」という言葉を添えてある。

 「安らか」な１年でありたいと願う。