寒さに備え、冬毛に変わりつつある「たぬきち」(手前)と「やえ」(舘山国敏撮影)
園内の北海道産動物舎に、後ろ脚の片方がないエゾタヌキがいる。1年前に交通事故で旭川市内の動物病院に保護され、今年4月に持ち込まれた雄の「たぬきち」だ。飼育員たちがハンディキャップを忘れてしまうほど、展示場内を元気に駆け回っている。 たぬきちは昨年9月、石狩管内の道路で車にひかれ、横たわっていたのを札幌市の女性に助けられた。女性によって夜間救急を行う旭川市内の緑の森どうぶつ病院に運ばれたが、後ろ左脚は骨折しており、5日後に切断手術が行われた。獣医師が旭山動物園と交流があったことから、治療後、たぬきちは動物園に引き取られた。 野生で育ったため、当初は警戒心が強かった。飼育員の置いた餌を食べず、展示場内の巣穴に引きこもったまま。そんな日々が続いた。飼育員の佐藤和加子さん(38)は「このままでは痩せてしまう。動物園での飼育は、たぬきちにとって良かったのか」と悩んだ。 たぬきちの支えになったのが、同居する雌の「やえ」(8)の存在だ。互いに“シャイ”な2匹は息が合ったようで、じゃれ合ったり、寄り添って眠ったりするように。やえが佐藤さんから餌を与えられるのを見て、たぬきちも少しずつ餌を口にするようになった。 今のところ、脚が1本ないことによる支障はなさそうだ。餌を食べる時にバランスを崩して食べにくそうにするくらい。他のタヌキと同じように走り、特技の穴掘りも楽しむ。園内のエゾタヌキは多くが旭山生まれのため、異なる血統を持つたぬきちと、やえの繁殖に期待がかかっている。 私たちの身近に生息するエゾタヌキ。臆病で人目に触れる機会は少なく、佐藤さんは「野生で動いているタヌキよりも、道路で死んでいるのを見たことのある人が多いかもしれない」と話す。飼育員たちは願う。たぬきちが動物園にいる理由を考えて、ドライバーには優しい運転を心掛けてほしい―と。(若林彩)
|