つぶらな青い瞳に、ふわふわの毛。7月に生まれたユキヒョウの赤ちゃんは、来月ごろ予定の一般公開に向けて、「もうじゅう館」の寝室から展示場に出る練習中だ。旭山動物園での繁殖成功は2016年以来2頭目。待望の赤ちゃん誕生の裏には、希少動物ゆえの難しい「婚活」事情があった。 赤ちゃんの父親ヤマト(10歳)は、札幌市円山動物園生まれ。円山は1987年に国内で初めてユキヒョウの繁殖に成功し、これまでにヤマトを含む12頭を育成。現在、全国12の動物園が22頭飼育しており、そのほとんどが円山の血を引いているという。 問題は近親交配で遺伝的多様性が失われることだ。ユキヒョウは絶滅危惧種で繁殖が期待されている一方、国内では血統が少なく、飼育員の大西敏文さん(46)は「増やしたいのに、増やせない状況」と言う。そこで旭山は12年、ドイツの動物園からヤマトの「お嫁さん」にジーマ(9歳)を迎えた。このペアは相性が良く、16年に2頭を出産。うち雄1頭が無事に育った。しかし、その後ヤマトとジーマの繁殖に「待った」がかかった。国内のユキヒョウの血統を見て繁殖の計画を進める種別調整者が、2頭の子を増やしても3世代、4世代目で近親交配になる恐れがあると判断したからだ。 その後、他の動物園でも繁殖が進み、今年2月、ヤマトとジーマは同居を再開。4月に交尾が確認され、7月19日に待望の赤ちゃんが生まれた。ただ、ジーマの相手は今後もヤマトというわけにはいかず、違う相手を探すという。 園内ではシンリンオオカミも婚活に悩まされている。旭山はこれまでに9頭を繁殖。全国の動物園では33頭が飼育されているが、近親交配を避けるため、旭山では15年以降、繁殖をストップしている。 そこで、期待されているのが、旭山生まれの雄ヌプリ(8歳)と、昨年6月に名古屋市東山動植物園から来た雌アオイ(11歳)だ。2頭はすぐに園内の非公開施設で同居を始め、「比較的仲は良い」と飼育員の佐橋智弘さん(35)。飼育員たちは命をつなぐ難しさと日々向き合っている。(若林彩)
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