サルとイノシシの共生展示。両者は絶妙な距離を保っている(打田達也撮影)
4月、さる山でおなかを出して寝転がっていた81匹のニホンザルの群れに、突如2頭のニホンイノシシが放たれた。慌てふためき山によじ登ったサルたちの下を、のそのそと歩くイノシシ。サルが少しかわいそうな気もするが、本来の野生の姿を引き出す「共生展示」の一つだ。 昔話でも、おなじみのニホンザルとニホンイノシシ。どちらも北海道には生息していないが、本州の里山で共生している。 日本の古き良き里山を再現しようという試みは、2017年の開園50周年記念事業の目玉の一つだった。だが、捕獲を依頼していた鹿児島県南さつま市で条件の合うイノシシが見つからず難航。今年4月に青森県から2頭を譲り受け、2年越しの共生が実現した。 共生から4カ月、両者は絶妙な距離を保っている。イノシシがサルを攻撃することはないが、サルは常にイノシシの行動が気になる様子。山や遊具の上を活発に動き回るようになり、イノシシが近づくと群れをつくって甲高い声で威嚇する。そんなサルを尻目に、イノシシは山の下にある泥場で穴掘りを楽しむ。飼育員の高橋伸広さん(44)は「共生によるイノシシへの効果はまだ見えないが、平和ボケしていたサルたちには良い刺激になっている」と見つめる。 新たな「外敵」ができたことで、サルたちの関係にも変化が出てきた。やんちゃな性格から、他のサルに乱暴をしていた雄の行動が落ち着いたのだ。「閉鎖的な空間で同じ仲間と過ごすと、ストレスがたまるのは人間と同じ。外に敵ができたことで群れがまとまった」と高橋さんは語る。 動物園では共生展示を通して伝えたいことがある。国内ではサルもイノシシも、農作物を食い荒らす有害獣として駆除されている。もとは人と動物との緩衝地帯であった里山が高齢化で荒れたり、宅地開発でなくなったりして、動物が人里に下りるようになったのだ。居場所を奪ったのは誰か。展示にはそんなメッセージが込められている。(若林彩)
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