北海道新聞旭川支社
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旭山動物園わくわく日記

 オランウータンの兄妹が同居*亡き母に代わり「子育て」   2019/07/15
優しいまなざしで、森花(左)を見つめる森人(宮永春希撮影)

 ロープを伝って追いかけっこをしたり、好物のバナナを分け合ったり。園内のオランウータン舎でじゃれ合うのは、ボルネオオランウータンの森人(もりと)(11歳、雄)と森花(もか)(4歳、雌)の兄妹だ。5月下旬、亡き母に代わり、兄による異例の子育てが始まった。

 野生のオランウータンは6~9歳まで母親と暮らし、その後、独り立ちする。森花も母親のリアンと同じ飼育舎で育てられたが、今年3月、リアンはくも膜下出血で急死した。

 「母親との生活は、自分が将来、親になったときの子育てに影響する。4歳までの記憶では、育て方が分からず育児放棄をしてしまうかもしれない」。リアンの死後から2カ月間、森花は単独で飼育されたものの、飼育員の佐橋智弘さん(35)は不安を拭い切れずにいた。

 そんな中、飼育員の間から「森人に任せてみたらどうだろう」との意見が出た。森人は元々穏やかな性格。母親のような子育てはできなくても、森花の精神的な支えになってくれるかもしれない―。飼育員たちの淡い期待の中、5月20日、同居がスタートした。

 同居初日から、森人は森花を抱き寄せて眠り、おてんばな森花が高所から落ちそうになると、とっさに背中に乗せるなど、兄の顔をのぞかせた。森花も森人をまねしてロープで遊んだり、エサを食べたりと、できることが日々増えていった。

 樹上で生活することの多いオランウータンは群れをつくらず、単独で行動することが多い動物だ。同じ血を引いても、特に雄は大人になると相手をライバルとして意識し、同居は難しくなる。「あと2年遅かったら、一緒に暮らすことはできなかっただろう」と佐橋さんは話す。

 旭山動物園によると、全国の他の動物園も含め、オランウータンの兄妹での同居は聞いたことがないという。「森花が無事に命をつなぐ親に成長してほしい」。佐橋さんは温かい目で兄妹を見守っている。(若林彩)


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