北海道新聞旭川支社
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旭山動物園わくわく日記

 エゾシカとの共生*食害対策の苦悩伝える   2019/06/17
電気柵で囲った農園のそばでたたずむエゾシカ(宮永春希撮影)

 園内の「エゾシカの森」の一角に小さな農園がある。トマトやナス、カボチャ、スイカ、ジャガイモを植え、動物園で野菜を育てる試みだ。エゾシカの森がオープンした2009年から続いている。

 農園の周りには電気柵。道内では農家が育てた野菜を、増えすぎた野生のエゾシカが食い荒らすケースが後を絶たないが、電気柵はその食害対策の一つだ。野生動物と人は、どうすれば共生できるのか。エゾシカの森農園は、そんな現状を伝える役割を担う。

 昨年は「子どものシカが侵入し、一部の野菜を食べてしまった」と飼育員鈴木悠太さん(30)は言う。対策をしても知恵を使ってすり抜ける動物。それも、農家と野生動物の間に横たわる現実と言える。

 現在、園内で暮らすエゾシカは9頭。ニホンジカの亜種で一般的な体長は150~190センチ、体重は80~130キロ。夏を迎える今は灰褐色の冬毛から白い斑点のある茶色い夏毛に生え替わり、日陰で暑さをしのぐ姿が木漏れ日になじむ。雄の白く大きな角は春に抜けるため、今は血の通った赤っぽい「袋角(づの)」の状態だ。

 草をはむ様子もほほ笑ましい。上の前歯がなく、繊維質の多い草を食べるときは胃に入れたものを口に戻して奥歯でかみ直す「反すう」を行う。「座って休んでいるように見えても、口をもぐもぐ動かして反すうしています」と鈴木さん。

 旭山には猟銃免許を持つ飼育員が3人。鈴木さんはその1人で、2年前には猟友会のエゾシカ駆除に参加し、シカと自然のよりよい未来を考え続けている。

 エゾシカはなぜ増えたのか―。それを考えさせられるモニュメントが6月1日、旭川市内の7条緑道に登場した。元飼育員で絵本作家あべ弘士さんが手掛けた「エゾオオカミ物語」。人による駆除などでエゾオオカミが絶滅、シカ急増につながった歴史を紹介する。

 旭山では、その物語を絵巻風に描いたイラストを園内のオオカミの森入り口に設置した。そこに、こうある。「エゾシカを害獣にしたのは誰?」。人が常に考えておくべき問いかけだ。(宗万育美)


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