3月中旬、浜松市動物園に移ったアムールトラのソーン
3月19日、アムールトラのソーン(雄、2歳)が浜松市動物園へ移りました。 ソーンは2016年4月8日、雌のナージャと一緒に生まれました。 父親のキリル(9歳)と母親のザリア(8歳)は、14年にアメリカの動物園から旭山に来園。2頭が子をもうけることは、日本で飼育されているアムールトラに新たな血統を確立する意味でも重要でした。 そして旭山で初めてのアムールトラの繁殖が成功しました。同僚も先輩もトラの繁殖を見たことがない中で、最初は私も心配しながら暗視カメラ越しに子育てを見守りました。でも、ザリアの立派な母親ぶりを見て、すぐに安心しました。 ソーンとナージャはみるみる成長し、出生時約1キロだった体重は今ではソーン180キロ、ナージャ推定100キロにまで成長しました。体重差がありますが、トラは体重の性差が大きい動物なので2頭とも順調に生育したといえます。 ソーンが浜松に移ったことを寂しく感じる人もいるかもしれません。でも野生下のアムールトラは3歳前後で親離れして単独生活を始めると言われますから、今回の移動は「野生の習性の再現」でもあるのです。 アムールトラは絶滅危惧種に指定されており、野生個体の捕獲は法律で禁じられています。動物園のアムールトラの世代をつなぐには、飼育下で繁殖させるしかないのです。 移動によってソーンは雌とのペアリングの機会を得ますし、両親のキリルとザリアも次の繁殖の機会を得ます。トラたちにとって「喜ばしい門出」と受け止めていただければ幸いです。 人間社会もちょうど卒業や別れを経て、新生活がスタートする季節。中学校教師が3年間担任した生徒を卒業式で送り出すような気持ちで、ソーンを送り出しました。 今後はナージャについても、移動先の動物園を探すことになるでしょう。飼育係としてトラの成長を観察し、多くの貴重な事を学びました。それを糧として僕自身も成長し、今後の仕事に生かしたいと思います。(もうじゅう館担当 大西敏文)
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