北海道新聞旭川支社
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旭山動物園わくわく日記

 繁殖賞*「国内初」の努力と苦悩    2017/08/28
旭山動物園がこれまでに受けた繁殖賞の記念プレート=旭川市旭山動物園提供

 動物園ではたくさんの命と向き合い、時には新しい命が誕生し、時には息絶える、そんなことが日々くり返されています。そんな中、国内で初めてその種が繁殖した際、日本動物園水族館協会(動水協)から「繁殖賞」なるものが与えられます。

 繁殖賞を受賞するにはいくつか条件があります。まず動水協に加盟していること、その種が国内で初めての繁殖であること。これには2パターンあり、自然繁殖(親が自力で繁殖、成育させること)と人工繁殖(何らかの理由により飼育員の手で育てること)に分けられます。さらに生まれた命が6カ月成育した場合にのみその対象となります。

 旭山動物園では、1974年のホッキョクグマが最初で、フクロウ、カモ、ワシ、タカ、野鳥などの鳥類や、希少種であるアムールヒョウ、爬虫(はちゅう)類ではオマキトカゲが受賞しています。中にはスズメやアカゲラといった私たちの身近にいる種も受賞していますが、当たり前にいる種もいざ飼育下での繁殖となると簡単ではありません。卵の中で順調に育っていたがふ化には至らない、生まれはするが数日で死んでしまう。あぁ、答えは何なのか? まさに暗中模索です。前例がないから繁殖賞なわけで、故にマニュアルなんか存在しません。当時の資料を見ると、獣舎の環境を変えたり、ペアを組みかえたり、また似た種で繁殖に成功している動物園や水族館の資料を参考にしたり、努力と苦悩があふれています。またうまくいったとして次のシーズンに同じことをしても失敗するなど、その技術を確立するに至るまでには長い年月と経験が必要なのです。

 「飼育員にとっての喜びと悲しみは何ですか?」と聞かれると、私は「喜びは担当動物が生まれること、悲しみは命が絶えること」と答えます。動物園の動物がその場所で繁殖してくれるということは、そこが安心して産める場所だと動物たちが認めてくれた証し、そんな環境を与えることができたという喜び、それがやりがいだと思っています。

 50周年のマンスリー企画も続いています。いつかの月に「旭山・繁殖賞の歴史展」をやろうと考えていますので、開催の際はぜひ見に来てくださいね。(キリン担当 副園長・中田真一)


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