園内放送に反応し遠ぼえを繰り返すオオカミ
「ウォーン」。園内の飼育施設「オオカミの森」で、シンリンオオカミが空に向かって遠ぼえする。その姿は、1世紀ほど前に絶滅したとされるエゾオオカミが暮らした北海道の遠き日の光景を思い起こさせる。 遠ぼえは、仲間に自分の位置を伝える最もオオカミらしい習性の一つ。旭山では園内の案内放送に反応することが多く「見られた人はラッキー」と担当飼育員の佐藤和加子さん(36)。 旭山のシンリンオオカミは2008年、「森」の完成に合わせ、現在の群れの雄のリーダーでケン(10歳)など3匹がカナダなどの動物園からやって来た。翌年にはのちにケンのパートナーとなる雌のマース(9歳)も来園。2匹の相性はよく、これまでに9匹の子どもに恵まれた。 現在は親子7匹が「パック」と呼ばれる家族の群れで暮らす。アイヌ語で花を意味するノンノ、同じく風の意のレラなどと名付けられた子どもたちは、体毛が白っぽいマースと黒いケンから生まれたため、茶色、グレーなど見た目はさまざま。佐藤さんは「見分け方を看板に書いてあるので、じっくり見てほしい。それぞれの個性もわかるようになります」と勧める。 世界中に分布するオオカミは実はすべて1種類の「ハイイロオオカミ」。エゾも、北米に生息するシンリンも「ハイイロ―」の亜種だ。 旭山はオオカミのイラストを今年、開園50周年記念のロゴマークにあしらった。エゾオオカミの絶滅理由の一つが、駆除など「人の手」によるとされる歴史を学び、人と動物の共存を考えてもらおうとの園の思いがこめられる。 オオカミの森の横には09年にエゾシカを飼育する「エゾシカの森」を整備した。食害をもたらすエゾシカの増加の要因の一つには、捕食者のオオカミの絶滅があるとされる。天敵同士を隣り合わせることで「自然下では複数の動物がバランスをとりながら共生していることを知ってもらいたい」と坂東元(げん)園長は言った。(川上舞) |