カバと生息域が重なるアフリカ産のヤスデ(旭山動物園提供)
2013年11月に新設した「かば館」。その館内には5個の展示水槽がひっそりとあります。 かわいらしい若いカバが人気となり、大勢の来園者を沸かせる中、この小さな水槽も来園者を沸かせています。ただ、上げる声の質が違う。カバを見た来園者は歓声で「かわいい!」。この水槽を見た来園者は叫声で「キモッ!」「マジ、無理!」…。担当者としては少し寂しいです。 予想はしていました。なぜならこの水槽で展示しているのは、カバの生息地でもあるアフリカ産のヤスデやゴキブリ、サソリなど、いわゆるゲテモノと呼ばれる生き物たち。 でもね、私たちが生きていけるのは、彼らのおかげといっても過言ではないのです。彼らは、自然界での分解者。落ち葉を分解して良い土壌を作ったり、私たちなら目をそむけたくなる熟成した死骸を、ごちそうとして片付けてくれる。キモイと言われながらも、たくさんの卵や子供を産み、他の生き物にことごとく食べられてしまう。なくてはならない存在なのです。 旭山動物園で人気のあるホッキョクグマやペンギンたちを取り上げて環境問題を訴えれば、かわいいので誰もが守りたくなります。けど、かわいい動物を守るためにこそ、ゲテモノと呼ばれる、地球を土台から支える生き物の大切さを伝えることこそ、動物園の役割の一つなんじゃないかなと思います。かわいい生き物だけを守り、キモイ生き物を排除してしまうようでは、私たちが安心できる未来はないんじゃないかなと思います。 自然に親しむ機会が減りつつある今だからこそ、ゲテモノたちに目を向けてください。ゲテモノが快適に暮らせる環境なら、かわいい生き物たちも、私たちも、安心して暮らせる環境のはずです。「気持ち悪い。けど、もっと近くで見てみたい」から、いつの間にか「見慣れてくれば、ちょっとかわいいかも」と、一人でも多くの来園者が思ってくれれば幸いです。
(エゾシカの森、両生類・は虫類舎担当 白木雪乃) |