両生類・は虫類舎のプールでじっとしたままのアメリカアリゲーター(旭山動物園提供)
「全然動かないね」「置物みたい」。こんな来園者の反応もよそに、米国南東部に生息するワニ「アメリカアリゲーター」の雌1頭は展示室のプールでじっとしたまま動かない。 旭山動物園と言えば、動物の特徴的な行動を引き出す「行動展示」で知られる。動きのないこのワニは行動展示の対極にいるような存在だ。担当の白木雪乃さん(33)は「あえて動きを出そうとは思わない。動きがない理由を考えてみてほしい」と話す。 いつエサを捕れるか分からない野生の世界では、エネルギーを消耗しないことが大切。無駄に動くと獲物に逃げられる可能性もある。展示室には手書き看板を掲げ、ワニの生態も伝えている。 旭山動物園は今年で開園48年目。開園時から飼育する動物はこのワニ1頭だけだ。全長は約3メートル、体重は約100キロ。名前はなく、年齢不詳。アメリカアリゲーターの寿命は70年ほどという。かつては5頭いた。唯一生き残るこのワニは卵を産んだこともあったという。 迫力のある見た目とは裏腹に、神経質な一面もある。ワニを飼育する「両生類・は虫類舎」を2011年にリニューアルした時、半年ほど園内の別の施設で飼育すると、環境変化のためか餌を全く食べなくなった。現在の展示室は一見窮屈そうにも見えるが、白木さんは「長年いる今の場所が一番落ちつけるのでは。最期までずっとこのままにしてあげたい」。(佐藤圭史) |