北海道新聞旭川支社
Hokkaido shimbun press Asahikawa branch

日曜談話室

大久保嘉子さん(77)*ふらのジャム園経営の共済農場代表*野菜加工 無添加にこだわり*甘さと栄養 両立に工夫(2019年9月22日掲載)
おおくぼ・よしこ
留萌管内増毛町出身。昭和女子短大で栄養士の資格を取得。卒業後は札幌で建設会社で働く。麓郷に入植していた夫尚志さんと出会い、移住した。2003年に尚志さんが亡くなった後、共済農場代表に就任した。愛称は「ジャムおばさん」。

 道内唯一の「アンパンマンショップ」を併設し、多くの子ども連れの観光客らでにぎわう富良野市麓郷の「ふらのジャム園」。創業当初から無添加の野菜ジャムを販売し続けている。同園を経営する共済農場の代表大久保嘉子さん(77)に「甘くても体に良い加工品」を作り続ける理由について聞いた。(聞き手・富良野支局

 宮木友美子)

 ――現在、販売しているジャムは何種類ですか。

 「40種類です。1番人気はハスカップで、2番は定番のイチゴ。でも、うちはニンジンやカボチャなど野菜ジャムがおすすめ。野菜が苦手な人にビタミンや栄養を取ってほしい。ちなみにニンジンのジャムの商品名は『キャロット』。これなら子どもがニンジンと気づかず食べてくれます」

 ――ジャムのほとんどが化学調味料を使わない無添加ですね。

 「全ての商品ではありませんが、無添加無着色、そして無加水にこだわっています。ただ野菜をジャムにするだけじゃおいしくない。でも砂糖や添加物を大量に入れれば、生活習慣病を招く恐れがある。試行錯誤し、水を加えずぐつぐつ煮続けると、濃厚で野菜の甘さと栄養が残ったジャムができると分かったんです」

 ――どうして麓郷に。

 「自分たちの手で安心・安全な食べ物を栽培しようと、45年ほど前に20~50代の男性5人が麓郷に移住したのが共済農場の始まりです。彼らを手伝うために、共感した若者が札幌からボランティアで通っていました。私もその中の一人。農場で働いていた夫と出会い、1978年に結婚して移住しました」

 ――なぜジャム作りを。

 「移住後、脚を悪くして農作業ができなくなって…。貧しいので家の中でじっとしているわけにいかず、加工品を作ろうと考えたんです。当時はバブル絶頂期で、『食と健康』への意識が低かった。国内産の無添加ジャムがないことに気づいて作り始めました。人気が出て、工房にジャム資料館を設けることになり、ジャムおじさんが出てくるテレビアニメ『それいけ!アンパンマン』の原作者やなせたかしさんに、展示用の色紙を求めました。やなせさんが麓郷の景色を気に入ってくれたようでアンパンマンショップのオープンを提案してくれました」

 ――近年は健康に気をつけて外食でも野菜を食べる人が増えました。

 「本当に良い傾向です。ただ、朝食を食べない人やお菓子だけで済ます人は少なくありません。そんな人に手軽に野菜を摂取してもらおうと、今年、ニンジンを練り込んだ低糖のケーキを発売しました。どうやって野菜を食べてもらえるか、まだまだ考える必要がありそうです」

*取材後記
  大久保さんに初めて会ったとき「勉強熱心で非常に優秀なんですよ」と自慢げに、ある社員を紹介してくれた。従業員の宮里裕己さん(36)は、水分を調整してふわりとしたパウンド生地のニンジンケーキを開発。代表の食への考えに共感して埼玉から移住した。「添加物が当たり前の社会。でも体に良い食品を消費者に届けたい」という大久保さんの願いは、若い世代にも伝わっている。


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