北海道新聞旭川支社
Hokkaido shimbun press Asahikawa branch

日曜談話室

阿部昌彦さん(60)*道立羽幌病院院長*要介護前に介入「フレイル」専門外来開設*地域医療の未来先取り  2019/01/20
あべ・まさひこ
帯広市出身。帯広柏葉高から自治医大に進み、市立稚内病院、利尻島国保中央病院、道立静内病院(現新ひだか町立静内病院)などを経て、1994年から道立羽幌病院。2007年4月~18年3月、江別市立病院に派遣され、副院長として内科再建に尽力した。同年4月から現職。総合内科専門医。

 【羽幌】道立羽幌病院は昨年11月から、道内で初めて「フレイル」の専門外来を開設した。フレイルとは加齢で心身の機能が低下し、健康な状態から介護が必要になる中間段階を表す新しい概念。健康寿命を延ばすため医療が早期介入する先進的な取り組みだ。その狙いや課題について阿部昌彦院長(60)に聞いた。(聞き手・羽幌支局 長谷川賢、写真も)

 ――開設から2カ月半。利用状況はどうですか。

 「11月が4人、12月が11人、1月は予約を含め既に13人で、徐々に浸透してきています。完全予約制で、佐々尾航副院長と私の2人で、毎週月曜日の午後に診察しています」

 ――まだ聞き慣れない言葉ですね。

 「フレイルという病気があるわけではないので、この薬を飲めば治りますよというものではありません。例え話で言うと、ある海水浴場で溺れている人が川から次々と流されてきて、医者はそのたびに助けていた。ある時、川の上流にさかのぼってみたら溺れる前の人がいたので、『このままでは溺れてしまいますよ』と早めに声をかけ、手を打った。すると海水浴場で溺れる人は減った。それがフレイル外来なのです」

 ――具体的には、どんな診療が行われるのですか。

 「事前にチェックシートに記入してもらい、体組成計で筋肉量や骨密度などを測定し、運動機能の衰えもチェックします。問診の結果、食事内容を改善したり、筋力アップを促したり、認知症の疑いがあればMRIで画像診断もします」

 ――介護施設や行政機関でなく病院がフレイルに取り組む意義とは。

 「誰だって年老いて衰弱します。でも健康でいられる期間を少しでも長くしたい。健康寿命を延ばすことはその人個人にとって大事であると同時に社会全体にとっても医療や介護に余計なお金をかけなくて済むので大事です。国は今、医療保険と介護保険を一体的に進めようとしています。フレイルはそれを先取りする取り組みであり、地域医療の未来の姿として大変意義深いと考えています」

 ――広めていく上での課題は何でしょうか。

 「各町村の地域包括支援センターと情報を共有し、連携を強めることで、さまざまな介護予防の事業展開が可能になります。介護リスクの高い人、要支援・要介護の一歩手前の人をいかに見つけるかが鍵を握ります。うちの病院は一昨年の春から総合診療を始めました。ジャンルを問わず診るので患者の全体像を把握できるのがメリットです。その延長線上にフレイルがあるので、総合診療医を育てるのも重要な任務です」

*取材後記
「メタボ」は「メタボリック症候群」の略称で、大抵の人が「内臓脂肪の肥満」と理解する。生活習慣病の一歩手前として予防意識も高まっている。さて「フレイル」はどうか。地域医療の現場に身を置き、未来を見据える阿部さんの言葉には説得力があった。数年後、日常会話で「それ、フレイルじゃない?」と多くの人が使っているかもしれない。早期発見・早期介入で健康寿命が延びるならスリムなウエスト同様大歓迎だと思った。


戻る