北海道新聞旭川支社
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ヒューマン

小池暢子さん(80)*招へい事業の実行委員長 銅版画家*若手が士別に滞在し創作活動*芸術通し地域を豊かに  2017/11/05
こいけ・のぶこ
1937年、高知市生まれ。5歳のとき家族で士別市へ。東京・女子美術大学卒業。ヨーロッパで一版多色刷りの銅版画を制作し、多くの国際展に入選し30カ国以上で展示を開いた。帰国後、士別市内にギャラリー「絵音(えね)の館」を開き、制作活動を続ける。日本版画協会会員。

 道内外の若手芸術家が士別市内に滞在して作品を創る事業「しべつアーティスト・イン・レジデンス」が開かれている。今年2月に初開催され、2回目の今回は彫刻家と版画家の計4人が参加する。実行委員長を務める市内の銅版画家小池暢子さん(80)に芸術を通したまちづくりへの思いを聞いた。(聞き手・士別支局 山村麻衣子、写真も)

 ――事業開催までの経緯を教えてください。

 「私が1986年にパリから戻って以降、士別では日本版画協会の移動展を3年に1度開いています。士別はスポーツ合宿や羊の飼育などが盛んですが、版画もある。士別のまちづくりに文化的、アーティスト的な要素が必要だと思っていました。博物館職員の熱心さもあって文化庁補助金を受けることができ、呼び寄せる芸術家の滞在費などを全て賄えています。せっかく呼ぶのなら、プロの芸術家。そこにはこだわりましたよ」

 ――初回は東京から銅版画家2人を呼び、制作テーマは「士別の冬」でした。

 「事業では士別の春夏秋冬をテーマにします。初回は冬、今回は秋です。初回では、日本版画協会を通して参加を呼び掛けました。銅版画家の2人は一番寒い2月に来ましたが、豪雪地帯を訪れるのは初めてで冬靴も持っていない。市内のあちこちを連れて回りましたが、市内は雪に埋まり一面真っ白。銅版画は白黒の作品が一般的で、出来上がった作品はどれも白っぽいものでした。でもそれが冬が半年間続く士別らしさですよ」

 ――芸術家も面白がってくれたのでは。

 「自分が感想を聞かれることなどが好きではないので、意識して聞いていません。数字でも文字でも表せない繊細な心を表現するのがアート。士別の印象が良くても悪くても、何か感じてもらえたら成功です。若い芸術家には強い刺激をたくさん受け、新しい文化を生む力にしてほしいと考えています。私もローマやパリで過ごした約15年間に受けた刺激が、今の作品に生きています。士別での感動や驚きが、芸術家の今後の作品に出てくることも考えられ、それも楽しみです」

 ――公開制作や体験教室で、芸術家が市民と交流する場もあります。

 「自身の心を表現することで、生きている実感が得られます。芸術家は心の表現のために生きている人たちです。体験教室などで芸術家とふれあい、一般の人にも芸術が身近になってほしいです。絵でも詩でも音楽でも、他人に見せなくても自己表現の手段がある方が人生は豊かになりますから」


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