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ヒューマン

渡辺由起子さん(57)*中頓別町の公衆浴場「黄金湯(こがねゆ)」経営*地元木材を活用 化石燃料と決別*町民が支える憩いの場     2012/12/09
 わたなべ・ゆきこ 55年、十勝管内新得町出身。札幌の病院で看護師、北広島市で保健師として勤務。96年から2年間、青年海外協力隊員としてネパールで公衆衛生を指導した。2010年、中頓別町に移住。保健師勤務を経て、昨年から黄金湯を経営する。

 2006年に廃業した中頓別町の公衆浴場「黄金湯」を昨年10月、憩いの場としてよみがえらせた元保健師の渡辺由起子さん。お湯を沸かすボイラーの燃料は今月から灯油をやめ、まきに切り替えた。経費削減とともに「化石燃料に頼る時代からの決別」を唱え、地元の山林に豊富な未利用の木材資源を活用するためだ。

 「保健師として働いていたころ、山の仕事をしていたお年寄りと話すと、山に『林地残材』と呼ぶ木材が運び出されずに放置されていると聞きました。曲がって節が多い木や、シカやネズミに食われた木、伐採した跡の根の部分も。町内には廃屋から出る廃材もある。『いるならあげるよ』と申し出てくれました。環境重視のバイオマスエネルギーで、無駄がありません」

 山林の未利用木材を「森のかけら」と呼び、山から運び出してまきを割る作業を「森のかけらプロジェクト」と称してボランティアを募ると、13人ほどが協力を申し出た。

 「山のことを知る人、知らなくても力になりたいという人が、無報酬で手を差し伸べてくれました。指示待ちではなく、自分たちの段取りで進めていく。これはすごいな、と。一緒に作業する力の結集が絆や価値、誇りを生み、ドラマチックでした。まきは今年6月から2カ月かけ、250立方メートルほど蓄えました。2年分あります。1年間で使った灯油は14トン、約120万円でした。この出費が不要になり、経費削減効果は大きい。二酸化炭素の排出量も算定係数表で算出すると年間34トンの削減です」

 黄金湯の狭いロビーは、町民が近況を語り合う憩いの場だ。町内在住のチェロ奏者による演奏会や沖縄の物産市、友人を講師に招いて臓器移植やアフガニスタンの母子保健をテーマにした講演会も開いてきた。

 「町の人たちもここでいろいろな人と会って、子供や孫の話をするのが楽しそう。銭湯で催しを開くのは全国でさまざまな例があります。大都市では通り過ぎてしまう催しも、小さな町の小さな銭湯で開くと、互いに顔を間近に見られる。音楽も一人で聞くより、みんなで聞くと楽しい。地域のお風呂屋は地域のお茶の間。講演会も、よそから来たお客さんの話をお茶の間で聞く感じです。バイクで旅するライダーにも昔、黄金湯の常連だった人がいて、再開を喜んでくれました。地元の人と触れ合える貴重な場だからです」

 保健師の渡辺さんが公衆浴場を営む意義について「健康増進のまちづくり」を目指すことにあると言う。健康増進とは、単に病気の予防や体力づくり、入浴して気持ちいいというだけではなく「その人の居場所があり、人の役に立つと実感できて初めて健康になれる」との持論が込められている。

 「まき割りボランティアの人たちに『ありがとう』と感謝すると、『俺たちがお礼を言いたいくらいだ』という言葉が返ってきました。何かしたい、自分たちも必要とされたいと思っていた人たちが、黄金湯の再開で社会参加できた。誰かのために働くことが誇らしい、自分たちの町はこれだけのことができるんだぞ、と。この気持ちと力をまちづくりに向けたら、いい町になる。力を惜しまず、いきいきとまき割りに汗を流す人たちを見て、私も覚悟ができました。もう逃げられない。半端なことで、この銭湯をやめられない」

 必要とされる居場所づくりに向け、障害のある人、社会参加したくてもできない人を雇うことも考えている。雇用の受け皿となるため今年1月、黄金湯を経営する株式会社「自由起画」を設立した。

 「科学と化石燃料に頼り、手間のかかることを省いてきたのが現代社会。まきを割って運び、まきでお湯を沸かす手間をみんなで楽しく分担する。その輪の中に社会的に弱い人たちが参加すると、さらに価値が高まる。簡単じゃないけど、実現できるかどうか、私も試されています」

 文と写真 枝幸支局 佐々木学

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