北海道新聞旭川支社
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ヒューマン

竹田津実さん(68)*公開中の映画「子ぎつねヘレン」の原作者、東川町在住の獣医師*かわいいだけではない野生生物*自然界の摂理考えて 2006/04/02
竹田津実さん

<略歴>
 たけたづ・みのる 1937年、大分県竹田津町(現国東市)生まれ。岐阜大農学部獣医学科を卒業後、63年から網走管内小清水町で農業共済組合の家畜診療所に勤務。ライフワークとなるキタキツネの生態調査を始める。けがや病気で持ち込まれる野生動物の治療にも取り組む。53歳の時、「物書きとして生きてゆきたい」と退職し、執筆活動に専念する。動物写真家としても有名。2004年、東川町に移住。

 目が見えず耳も聞こえない子ギツネと、東京から来た少年の交流を描いた映画「子ぎつねヘレン」が、全国で公開されている。原作者は二年前に網走管内小清水町から東川町へ移住してきた獣医師の竹田津実さん。長年、キタキツネの生態調査を続けている野生動物の権威に、この映画が伝えようとしているメッセージを聞いた。
(旭川報道部 長谷川賢)

 −−重い障害のある子ギツネが実際に存在していたのですか。

 「映画では親とはぐれた子ギツネを少年が拾ってきたという設定ですが、実際は道端で身動き一つしない子ギツネを見つけた私の友人が、様子がおかしいから診てやってほしいと、私のところへ持ち込んできたんです。おそらく交通事故に遭ったのだと思います。鳴き声も出さず、視覚と聴覚がほとんど機能していないようで、世話をしているうちに嗅覚(きゅうかく)や味覚もないらしいということが分かってきた。三重苦、四重苦だから『ヘレン・ケラーより重い障害だな』と私がつぶやいたら、妻がこの子ギツネの名前をヘレンにしようと言って決めてしまいました。本当は名前をつけたくなかった。診療所に入院してくる野生動物はカルテ番号で呼ぶようにしています。名前をつけると情がわいてしまい、安楽死させなければならないケースでも踏み切れなくなるからです」

 −−自分の力で生きてゆけないヘレンを、安楽死させるべきかどうか、考える場面があります。

 「私の診療所に入院してくる患者は野生動物です。治療して退院してもらわないと困る。自然界に戻して自力で生きられないような場合は、安楽死を考えざるをえません。確かに、世話をし続ければ生きながらえることもあります。しかし、飛べなくなった鳥をどうすればいいのでしょうか。助けることができなければ獣医師の出番はありません。もう少し現実的な話をすれば、入院費用や介護費用は誰も出してはくれません。一時期、三十匹から四十匹の動物を面倒を見ていたことがありましたが、お金がいくらあっても足りませんでした。それに、そもそも野生動物を飼育することは法律で禁じられているんです。けがや病気の野生動物を私のところに運び込むのは大抵、子供たちです。具合はどうなったかと毎日、顔を出します。もう助からないと分かったとき、安楽死のことも話しますが、まったく理解されません。どうして殺すのかと、くってかかってくるんです。障害があるのは不便かもしれないけど、けっして不幸なことではないと言いだす子もいます。人間と動物は違うのですが、説得はできません。理屈ではなく、私自身も子供たちの感情が自然なことで、間違っていると思えないからです」

 −−映画化にあたって、原作者として、何か注文をつけたところや気になる点はありますか。

 「かわいいというだけで野生動物に近づこうとするのは危険だということは強調してほしかったので、たとえば、キツネにはエキノコックスという寄生虫がついていることがありますから、入院時に徹底して対処することなどを省略しないように求めました。撮影には実は八匹の子ギツネが使われています。撮影が行われたのが昨年の五月から七月にかけてで、撮影中もキツネはどんどん成長して大きくなります。小さいままでないとヘレン役はできません。仕方のないのですが、試写会で初めて作品を見た際、私はキツネの専門家ですから、何度も『あ、さっきと違うキツネだ』と分かってしまって、なかなかストーリーに入り込めませんでした」

 −−ヘレンは映画でも原作でも、最後は死んでしまいます。

 「ヘレンが死んだ後、主人公の少年の心には何かが確実に残ったのだと思います。ヘレンが生きた短い時間が何を意味するのかを考えさせられます。私も実際にヘレンと過ごした日々を思い返して、へレンが何かを伝えてくれたと感じました。それを映画を見た人にも感じていただければと思います」

記者のメモから
 多数の著作物を出しているが、エッセーや写真集だけではない。54冊目となる最新の著書は、旭川出身の絵本作家あべ弘士さんが絵を担当した「タンチョウは悪代官か?」(偕成社)。動物裁判シリーズの2作目で、特別天然記念物として人間に保護されて繁殖し、増えすぎたために、湿原のヤチウグイやドジョウが減る。訴えられたタンチョウに、裁判長のワタリガラスが言い渡した判決は…。野生動物への愛情と人間の愚かさを問う“竹田津哲学”が貫かれている。
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