北海道新聞旭川支社
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旭山動物園わくわく日記

 エゾヒグマのとんこ*人との共生 考えるカギ    2018/04/16

ふいに窓から顔をのぞかせて来園者を驚かせるとんこ

 生まれて間もないころから旭山で暮らすエゾヒグマの雌「とんこ」(推定19歳)は、人が大好き。飼育員や常連客を見ると、小窓をのぞきこんだりガラスをたたいたりして、人が驚く様子を見て楽しむ、おちゃめなクマだ。

 1999年4月、母グマとともに中頓別町にあらわれ、母グマは射殺された。その時、保護された子グマが、見つかった場所の地名の一字「頓」を取って「とんこ」と名付けられ、旭山が迎え入れた。

 とんこは元気に育ち、雄の「クマゾウ」とのペアリングに成功。2011年には2頭の子をもうけた。クマゾウは32歳(推定)だった14年に老衰で死んだが、とんこはその後も1頭で伸び伸びと暮らす。体長約2メートル、体重150キロの体格で悠々と歩く様子は「陸の王者」として来園者にクマのすごみも実感させている。

 飼育担当の大西敏文さん(44)は「母グマが人里に降りてこなければ、とんこは旭山にはいない。人とクマの共生を考える一助になれば」と話す。

 飼育員がガイドを行う際は必ず、とんこが園に来た経緯を紹介する。ガイドのない日でも来園者に知ってもらえるように17年春から、「もうじゅう館」に手書きの看板を設置した。

 看板では「人間に母親を殺されたとんこが来園者の人気を集めているのは皮肉なことでもあります。とんこが動物園で暮らしている意味とはなんでしょう」と問いかけ、「山で出会う確率を減らすために鈴をつける」「人間の食べ物の味を教えないためにゴミを捨てない」などヒグマと遭遇して起きる事故を防ぐ助言を書いている。その前で立ち止まる来園者も多く、看板の写真が会員制交流サイト(SNS)に投稿されると1万件以上に拡散された。

 エゾヒグマの寿命は25~30歳。今後ペアリングの予定のないとんこは、命をまっとうするまで旭山で暮らす予定だ。大西さんは「親を殺されてかわいそうで終わらせるのではなく、名のない野生動物が本来の居場所の森で暮らせるために、人にできることを伝えたい」と話す。(川上舞)


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