北海道新聞旭川支社
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旭山動物園わくわく日記

 長老チンパンジー*20年経て変わらぬ信頼    2018/02/19
長老として群れを率いるリーダーのキーボ

 この春で飼育員になって25年がたちます。これまでいろいろな動物の担当をしてきましたが「どの動物が好きか?」と問われると、私は迷わず「チンパンジー」と答えます。

 初めて彼らを担当したのは20年近く前だったと思います。第一印象はいつもギャーギャー騒がしく、ツバをかけたりウンチを投げたり「もう何なんだこいつら、めんこくない!」。最初は顔の見分けもつかず、ただの黒い塊にしか見えませんでした。

 彼らからしてみたら、どこの誰かもわからない新参者に心を開く訳もなく、当然私の順位は群れの中の最下位、3歳のチビチンパンジーよりも下です。新担当者の初めての仕事はまず彼らに仲間だと認めてもらうところから始まるのです。

 毎日のつきあいで群れのリーダー、雄の「キーボ」にも認められ、私がおり越しに手を上下左右に差し出すと、キーボは私の手を追いかけて優しく触る、通称「タッチゲーム」が二人の中での遊びとなり、徐々にスピードを上げていくと楽しくなってきて「ハッハ、ハッハ」とキーボが笑います。チンパンジーも笑うんです。また、雌3匹との間に子どもも生まれ、育児の様子も見せてくれました。

 あれから20年、昨年の秋から再びチンパンジーの担当になりました。大人たちのメンバーは当時と変わりませんが、私の知らない子どもたちがたくさん増えています。群れも二つになっていて、獣舎も快適な「ちんぱんじー館」になり作業量は倍増です。

 「また一から信頼関係作りからかな」と思いきや、そこは賢いチンパンジー、みんな覚えていてくれたようです。私が前に担当していた時に生まれた「ピースケ」は一つの群れのリーダーになっていました。ちょっと暴れん坊でリーダーの品格に欠けるところもありますが。

 そしてもう一方の群れのリーダーはキーボです。今も長老として立派に群れを束ねています。

 私50歳、キーボ49歳。「お互い老けたなぁ…」と思いをはせながら、いつものタッチゲームで笑い合う今日この頃です。(チンパンジー担当 副園長 中田真一)


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